アリ。
人間社会のかなり身近なところにおり、非常に小さく、数も多く、見る頻度も比較的高く、もはや日常の一部みたいな感じになりがちなため、よくいる虫の一部としてあまり気にされない傾向にあるのではと勝手に思っています。
そもそも私自身がアリのことをよくわかっていない。
日本には約300種ほどいるといいますが、私のような素人にはせいぜい「黒くて大きめのアリ」「黒っぽいあるいは茶色っぽい小さいアリ」程度しか知らず……きっともっと色々見分けられたら楽しいに違いない。しかしいかんせん小さくて、身近な生きものでありすぎるがために、「まあまた今度」とスルーしてしまいがち。意識が低い。
そんなアリに関して、個人的にいま興味深いのは好蟻性昆虫に関する話題です。
好蟻性昆虫とは、アリ社会の中に紛れ込み、共生、片利共生、寄生などさまざまな形で生きている生き物全般のことをいいます。
今月15日、NHKの「ダーウィンが来た!」でも特集されていました。
数年前にも「ダーウィン」と同様にアリと好蟻性昆虫のことを紹介していた番組があり、そこでミツバアリとアリノタカラの関係を知って以来おもしろいじゃん……と好蟻性昆虫に興味を持つようになりました。アリノタカラカイガラムシの分泌する甘露を主食とするミツバアリと、ミツバアリに世話してもらわなければ生きていけないアリノタカラカイガラムシの共生。お互いがいなければ生きていけないという生態に強く心打たれます。
ミツバアリの新女王が新天地に飛び立つ際に一匹だけアリノタカラを連れていく、その姿が特に美しい。
しかし好蟻性昆虫の真の魅力は、アリとの美しい共生ばかりではないという点にもあります。
アリ社会に狡猾に紛れ込み、こっそりと利益を搾取するような生き方をしている奇妙な虫たちからは、スリルとホラーを感じて違う意味で心を動かされます。
「ダーウィンが来た!」ではトビイロケアリの巣の壁になりきって幼虫時代を過ごす中で、あろうことかこっそりアリの幼虫を食べて成長し、羽化してはばたいていくアリスアブが紹介されていました。
さらに番組内には出ませんでしたが、シジミチョウも好蟻性である場合が多いようです。
甘露を出してアリに与える代わりにアリから守ってもらう……までならまだ共生で済みますが、たとえばゴマシジミなどは3令幼虫までは花を食べて過ごしているのにその後からはクシケアリ属のアリに甘露を与えてうまく取り入り、アリ自身に巣の中へ運ばせたあげくそこでアリの幼虫やさなぎを食べて成長するといいます。草食の時期と肉食の時期があるわけです。
巣の中で好き勝手されるなどアリからすればたまったものではありませんが、寄生者たちも毎回うまくアリの巣で生き抜くことができるとは限らないようです。幼虫を食べるタイプの好蟻性昆虫たちに常にいいように利用されていては、アリも生き残れません。
お互いに食べたり食べられたり利用したりされたりの絶妙なバランスで長い間子孫をつないできたのだと思われます。
アリなんてどれも似たようなものだし……と思いがちな私のような人間からしてみると、好蟻性昆虫に着目することで、同時にアリの生態の多様さに気付きやすいなと感じています。
なにしろ好蟻性昆虫はどのアリでもいいというわけではないようですから。ミツバアリにはアリノタカラ、トビイロケアリにはアリスアブ、クシケアリにはゴマシジミ、というように付き合う相手が大体決まっています。
こんなおもしろい虫たちが、とても近くにいるなんて。
小さくて小さくて探すのはとても根気と時間のかかることでしょうが、こうしたアリと好蟻性昆虫のことを思うと、身近な庭や道端の景色もちょっとだけ違ってみえるのです。